もしも2chにあなたの会社を誹謗中傷する記事が投稿されたら…削除方法は?損害賠償はどうなる?
ネット誹謗中傷被害は、個人に対する悪口やそれに対する慰謝料という問題がある一方、法人がその被害者となるケースも多発しています。
特に2chなどユーザー数が多い掲示板やサイトなどに誹謗中傷する記事が投稿されると、その被害は個人の比ではなく、とんでもない被害額が発生する場合もあります。
そこで今回は2chをはじめとするネット上の媒体に、法人を誹謗中傷する記事が掲載された場合を想定し、以下の点について解説したいと思います。
それでは始めましょう。
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そもそも2chってどんな掲示板?
2chは「にちゃんねる」「にちゃん」「2ちゃん」などと表現され、ネットをよく利用する人の中でその名を知らないという人はほとんどいないでしょう。
2chとは、簡単にいうとさまざまな掲示板の集合体であり、それらの掲示板はニュースや食文化などのカテゴリによって分けられています。
さらにその中で細かくジャンルごとに細分化されてその先に一つの掲示板があります。
この細分化されたジャンルのことを「板(いた)」といい、このような形態の掲示板のことを「スレッドフロート型掲示板」といいます。
2016年現在、2chには実に905個もの板が存在しており、さらにそこから枝分かれするように無数のスレッドが派生しています。
板の中には、アクセス数が非常に多い「過密板」と呼ばれる板があり、法人を誹謗中傷する記事が過密板に投稿されると、場合によってはヤフーのトップニュースに出てくるほど深刻な影響が出てしまうのです。
なお、板の内部では話題ごとにさらに分かれており、これら一つ一つを「スレッド」といいます。2chへの書き込みはこのスレッド内で行われます。
そして、このスレッドに書き込まれた内容のことを「レスポンス」を略して「レス」といいます。
2chは数ある掲示板サイトの中でも、圧倒的な規模を誇っており、アクセス数も今やテレビよりも2chを見ている人の方が多いのではと感じるほどにまで上昇してきており、1日あたりの書き込み件数はおよそ250万件にも上るとされています。
法人は2chなどにおいて具体的にどんな誹謗中傷被害が出ているのか
では、これまで2chにおいて具体的にどのような誹謗中傷被害が発生しているのかを見ていきたいと思います。
法人とその社員に対する誹謗中傷記事
これは2001年に実際にあった事例です。
2ch上で某生命保険会社の社員の実名を挙げた上で誹謗中傷する記事が投稿されたのです。法人側は2ch側に対して削除要請をしたそうですが、2ch側がこれに応じなかったため法的手段である「仮処分申請」を行いました。
最終的には仮処分申請が認められたため、正式に2ch側に対して削除命令が出たのです。ただ、法的措置を講じたことで、マスコミなどにも報道されたため、該当掲示板へのアクセスは反対に増加してしまうという皮肉な結果となりました。
2chになんの根拠もなく「ブラック企業」と書かれた
こうした投稿は、1つだけであればたいして影響はないかもしれませんが、2chの恐ろしいところはその「拡散性」です。最初はたった一言のレスでも、ネガティブな話題にネット住人は敏感に反応しますので、気がついた時にはあちこちのレスでブラック企業というなんの根拠もない悪評が広がってしまいます。
お店のことについて、根拠ない書き込みで誹謗中傷された
飲食店やショップなど、実体店舗を運営している法人のことについて、2ch上で根拠のない悪評などの誹謗中傷記事が書き込まれると、場合によってはその店の売り上げを直撃することとなり、書き込んだ本人が予想できないほどの経済的損害が発生することがあります。
このように、2chに法人を誹謗中傷する何らかの記事が投稿されると、場合によってはテレビCMを放送するよりも、広く世間に知れ渡ってしまうかもしれないのです。そして恐ろしいことに、こういった被害は、実在する法人すべてに対していつ発生してもおかしくはないのです。
どんな表現だと誹謗中傷になるのか
では、そもそも誹謗中傷とは具体的にどのような書き込みがこれに該当するのでしょうか。
これについては非常に微妙な判断となるため、一概にこの言葉がダメでこの言葉ならセーフという簡単な解釈はできません。
以前、掲示板に「死ね」と書かれた人が損害賠償請求で訴えを起こしましたが、裁判所の見解では「死ね」は「殺す」とは違って殺意はない、との見解を示し賠償金が一定程度制限されたという事例があります。
この事例からでもわかる通り、ネット上の書き込みは2chかどうかを問わず、文字だけが一人歩きをすることになるため、書き込む側はその認識をもって慎重に判断をして書き込む必要があると言えます。
また、「事実であれば問題ないですよね?」
という質問をする方がいますが、事実であればなんでもセーフというわけではありません。
例えば「刑法230条の2」では、
「事実の適示行為が公共の利害に関する事実にかかわり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められれば、名誉毀損罪は成立しない」
としています。
つまり、世のため人のためであれば、事実に基づく批判や批評はセーフとなる可能性がありますが、単にその法人を陥れるためにされた書き込みについては、たとえその内容が事実に基づくものだったとしても、名誉毀損、誹謗中傷とされる可能性があるのです。
2chの誹謗中傷によって、法人にどんな被害が出るのか
個人の場合は、名誉毀損による慰謝料請求となり、請求できる金額は投稿された記事や情報の内容にもよりますが、概ね100万円以下で収まるものがほとんどです。
けれども、被害者が法人となるとこれがまったく変わってきます。
法人の場合は誹謗中傷により「精神的苦痛」を受けるのではなく営業損害という「実害」が発生するため、その被害額は個人の慰謝料の比ではありません。特に2chの場合は利用者の数が相当なものですので、軽はずみな書き込みがとんでもない被害に発展することも少なくありません。
民法709条では、次のように規定されています。
「故意または加湿によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
また、これとは別に誹謗中傷により信用を失わせた場合は「信用毀損罪」、法人を誹謗中傷し業務を妨害した場合は、「業務妨害罪」といった刑法上の罪にも該当する可能性があります。
誹謗中傷被害に対する法人の損害賠償請求のポイントは、その行為によって受けた損害の算出方法です。つまり、2chに投稿された記事によって、具体的にどの程度の損害が生じたのかを金額で算出しなければならないのです。
具体的には、2chに書き込みがされる前の売り上げと、された後の売り上げを比較してその差額分を損害とみなして請求するなどの手法がとられていますが、このあたりについては任意交渉や裁判上での話し合いとなります。
2chの誹謗中傷記事は、どうすれば削除できるのか
2chに投稿された記事の削除は、その削除対象となる情報の内容によってその難易度が変わってきます。
手順としては、2ch専用の削除板から削除の申し出を行います。
例えば、電話番号などの個人情報については、この手順で申請をすれば比較的簡単に削除ができます。けれども、誹謗中傷か批判、批評かの判断が微妙となる案件や、法人を対象とした書き込みについては、簡単には動いてくれない可能性があります。
もしも2ch側に削除依頼が拒否された場合は、「掲載禁止の仮処分」の申請を裁判所に対して行います。通常は、削除を求める訴訟を起こして、それに勝訴した段階で削除命令が出るのですが、誹謗中傷や名誉毀損の疑いがある記事を、訴訟の決着がつくまでの間、2ch上に野放しにしておくわけにはいきません。
そこで、被害者に生じる著しい損害または急迫の危険を避けるための「暫定的措置」として仮処分(裁判中だけど、これ以上被害が拡大しないようにとりあえず記事は削除させますね。という感じ)が認められています。
仮処分申請を弁護士に依頼すれば、概ね1~2週間程度で2chから誹謗中傷記事が削除されます。
過去の2ch関係の判例解説
過去にも掲示板等への誹謗中傷記事の書き込みによって訴訟まで発展したケースはいくつかあります。
動物病院に対する名誉毀損
2chに動物病院の名誉を毀損する書き込みがされた事例で、東京地方裁判所は管理人の責任を認めて、記事の削除と400万円の損害賠償の支払いを命じました。
法人代表に対する名誉毀損
2chに大手法人の代表が愛人を募集したという記事が投稿されたという事例です。多数の女性問題に関する記事も書き込まれたため、これによって代表者本人だけではなく法人の社会的評価を著しく低下させたとして法人に300万円、代表者に100万円を支払うよう命じました。
メルマガによる名誉毀損
2chが発行しているメルマガに大手企業に対する名誉を毀損する内容が含まれていたとして、管理人に1億円の損害賠償請求を申し立てた事例で、裁判所は700万円の支払いを命じました。
このように、法人におけるネット誹謗中傷被害については、個人の慰謝料とは違い、経済的損失が多大なため、その損害賠償額も100万円以上の金額が認められることが多くなっています。
もしも、自社を誹謗中傷する書き込みを発見した場合は、速やかに削除請求をした上で、すぐに弁護士に相談して損害賠償請求の準備に入りましょう。