過去の犯罪歴、逮捕歴、前科、ニュース記事などは弁護士に依頼すれば削除できるのか?
最近では、採用面接にあたって、企業の人事担当者が人材選定の一環として、面接者の氏名をネット上で検索し、表示される情報をチェックしているようです。中でも、過去の犯罪歴、逮捕歴、前科などについては履歴書には出てこないため、人事担当者としてはどうしても気になるところなのでしょう。
かつてはこう言った情報を一般の人が容易に調べることはできませんでしたが、最近では逮捕歴や前科がある人の個人名を検索画面に入力すると、過去のニュース記事などが検索結果にヒットしてくるため、かなり昔に起こした事件についても、そのまま記録としてネット上に残り続けてしまうのです。
そのため、10年以上前の逮捕歴や前科のせいで、就職できないといった問題も発生してきています。
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過去の犯罪歴・逮捕歴・前科などのニュース記事によってどんな悪影響が出てくるのか
ネット上に過去の犯罪歴、逮捕歴、前科などのニュース記事が残るとどんな弊害が発生するのでしょうか。実際に削除を希望された人の動機を調べてみると、以下のような結果となりました。
就職・転職活動が困難になる
まずは、就職や転職活動が不利になります。
現在は採用担当者が応募者の名前をネットで検索することも珍しくありません。そのため、検索結果に逮捕・前科・犯罪歴などの事実がヒットしてしまうと、採用を見送られてしまうことも考えられます。
結婚や交際が難しくなる
結婚、交際などの男女関係にも大きな影響を与えます。交際相手に逮捕歴が知られて破局になる場合もありますし、本人同士がわかりあっていたとしても、相手方の両親に結婚を認めてもらえないケースもあります。
マンションやアパートを借りづらくなる
マンション・アパートなどの賃貸物件も借りづらくなります。
通常、賃貸借契約を行う際は入居者審査があります。もし審査時にネットを通して逮捕歴が知られてしまうと、契約が結べなくなるケースがあります。どことも契約を結べなくなるわけではないですが、契約を結べなくなる可能性は少なくとも出てきます。
子供がいじめの標的となる
もし子供がいる場合、なんらかのきっかけで子供の友人等に犯罪歴や逮捕歴がバレてしまうと、いじめの標的になるケースもあります。
最近ではスマホを早くから持たせる家庭も増えてきており、検索結果から発覚してしまう可能性も高くなっています。
家族に迷惑をかける
家族に迷惑をかけるケースも珍しくありません。
近所・職場・知人に悪い噂を流され、事件の性質によっては後ろ指を指されるようになることもあるようです。
事実無根の情報が晒される
また、ネット上のニュース記事の中には、素人が書いたような記事も混ざっており、実際には不起訴処分となっているにもかかわらず、逮捕歴や犯罪歴、前科としてネット上晒されてしまうこともあります。
そもそも前科とは何か?
前科とは実は法律上の定義がある言葉ではありません。一般的には、過去に懲役、禁錮、罰金、執行猶予などの刑罰を受けたことがある人の経歴のことを前科と言います。
そのため逮捕されたとしても、起訴されなければ前科とはなりません。
その場合は正確には「前歴」となります。
逮捕後はドラマ「HERO」でもおなじみの検察官が起訴すべきかどうかを検討し、不起訴処分となれば、逮捕歴は残りますが前科にはなりません。なお、起訴されるかどうかの判断にあたっては、基準がいくつかありますが、起訴されずに不起訴処分となるケースとしては主に次の3つに絞られます。
不起訴処分で前科がつかない3つのケース
- 犯行に関わっていないと判断した場合。いわゆる無実の場合です。
- 犯行に関わった可能性はあるものの、証拠が不十分である場合。
- 犯行に関わったことは認められるが、罪が軽い場合や本人が反省している場合。
この場合を「起訴猶予」と言います。
これらのいずれかに当てはまれば、前科はつきません。
そのため、前科や犯罪歴をネット上に残したくなければ、できる限り起訴猶予に持ち込むよう弁護士に相談しなければなりません。起訴猶予処分となるためには、被害者との示談成立が最も近道となります。
逮捕歴・前科・犯罪歴はネット掲示板やSNSで拡散される
ネット上に自らの逮捕歴が晒されると、時に2chなどの大型掲示板やツイッターなどのSNSで情報が拡散する場合があります。
通常、自分が起こした何らかの事件について報道各社のニュースサイトで公開されたとしても、多くの場合は3ヶ月ほどで記事自体が削除されます。ところが、2chやツイッターなどで事実が拡散されてしまった場合、それらの情報は管理人やアカウント主が削除しない限りネット上に残ることになります。
人々の関心を集める事件は特に拡散されやすい
特に、事件の内容が人々の関心を集めやすい事件だと、多くのサイトに取り上げられてしまいます。
人々の関心を集めやすいのは次のような事件です。
- 殺人事件などの重大事件
- 痴漢や淫行などのわいせつな事件
- 飲酒運転など著しいモラル欠如がある事件
また、公務員や有名人、大企業の社員などが起こした事件の場合は拡散されやすい傾向があります。
実名報道は違法ではないのか?
そもそも実名で犯罪者が報道されることは違法ではないのでしょうか。
これについては、過去に実名報道されたのちに不起訴となった人が新聞社を訴えたことがありますが、裁判所の判断としては、実名報道は違法ではないとの見解を示しました。
よって、現段階では実名報道についてはこれを違法としてやめてもらうことはできないということになります。
しかし、警察が間違った情報をマスコミに公表し、それによって実名を公表されたりすれば、名誉毀損となる可能性はあるでしょう。
そこで問題となるのが、警察が犯人として公表した人物が、裁判の結果無実となった場合です。この場合も名誉毀損となるのでしょうか。
これについての裁判所の見解は、警察が公表する時点まで通常行うべき証拠を収集した上で有罪と認められる嫌疑があったのであれば、名誉毀損にはならないとの見解を示しています。
《参考》ネットで名誉毀損されたら、慰謝料はいくらもらえるの?
拡散される前に早急に対策を打つことが必要
このように、実名による報道自体を制限することは難しいため、万が一実名で報道されてしまい、その情報がネット上のニュース記事などに残ってしまった場合は、自分自身で削除に向けて動くしかありません。
さらに、報道各社のニュースサイト以外でも情報が掲載されてしまうと、情報の削除はますます困難になっていきます。
近年は2chのミラーサイト、いわゆる「まとめサイト」への掲載や、ツイッターの「リツイート」、フェイスブックの「いいね」のような拡散機能によって加速度的に情報が拡散されてしまいます。
そうなってしまうと、すべての情報を削除することは困難を極めます。そうならないためにも、逮捕歴は放置せず、早急に対策を打つことが必要なのです。
逮捕歴・前科・犯罪歴を晒されたらとるべき3つの対策
万が一これらの情報がネット上に拡散してしまった場合は、次の3つの対策によって解決を試みる必要があります。
サジェスト対策
Googleの検索画面に個人名を入れた際に、自動的に関連ワードとして「刑務所、前科、犯罪歴、逮捕歴」といったネガティブなワードが表示されてしまうことがあります。これについてはGoogle側に削除請求などの法的措置を講じる必要があります。
ニュース記事の削除
過去の逮捕歴などが記載されているニュース記事の削除請求をします。
ただし、報道されたばかりのニュース記事については、「報道の自由」との兼ね合いもあり、すぐに削除してもらうことはできません。
ではどれくらいの時間が経過すれば削除してもらえるのか、という問題になりますが、これについては法的に決められた基準はありませんが、概ね3年〜5年程度が経過していれば削除してもらえるようです。
また、事件の規模や犯した犯罪の重さにもよるようです。また、執行猶予期間が終了しているような場合についても、削除が認められやすくなるでしょう。
検索結果からの削除
ニュース記事については、ネット上でまとめサイトなどに一気に拡散してしまうため、それら一つ一つに削除請求をしていたら、途方もない労力を必要とすることになります。
そこで、対策としては削除するのではなく、検索結果から削除してしまうことを考える方が得策となります。日本では約9割のユーザーはGoogleとYahoo!どちらかの検索エンジンを使用しています。つまり、この2つの検索エンジンに該当記事を表示しないようするだけでも人々の目に触れる機会を大幅に削減できるということです。
ちなみに、現在Yahoo!はGoogleの検索エンジンの結果を反映させているため、googleの検索結果から該当記事を削除できればYahoo!の検索結果からも削除されます。ですので、両者に削除依頼を申請する必要はありません。まずはGoogleに削除申請を出すようにしてください。
ただし、自分で申請しても以下の情報しかgoogleは削除してくれません。
- 国が発行する識別番号(米国の社会保障番号、アルゼンチンの個人納税者識別番号、ブラジルの納税者番号、韓国の住民登録番号、中国の身分証明カードなど)
- 銀行口座番号
- クレジット カード番号
- 署名の画像
- 当人の承諾なしにアップロードまたは共有された、ヌードや露骨な性描写を含む画像
- 個人の秘密である一般人の診療記録
出典:google削除ポリシー
つまり、逮捕歴は任意では削除してくれないということです。逮捕歴の検索結果からの削除については裁判上で法的根拠のもと削除を求める必要がありますので、お早めに弁護士にご相談ください。
何を根拠に削除してもらえば良いのか?
犯罪歴や逮捕歴、前科などについてはネット誹謗中傷とは違い、それ自体は単なる事実の報道であるため、名誉毀損を理由に削除してもらうことは難しくなります。この場合の削除請求の根拠として参考になる情報として、昭和56年4月14日最高裁判決の判例をご紹介します。
この判例をまとめると次のようになります。
- 前科や犯罪歴などは人の名誉や信用に直接関わる事項である
- 前科がある人はこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する
- 前科等はプライバシーの中でも他人に最も知られたくないものの一つである
このように、前科や犯罪歴などについては「これをみだりに公開されない」という法律上保護に対する利益があるとされているため、これを被保全権利として削除請求する方法が考えられます。
特に、逮捕後不起訴になっているような場合は、この削除請求が早い段階で認められる可能性があるでしょう。
削除請求が認められやすくなる4つの条件
もし任意での削除に応じてもらえなかった場合、裁判を通して削除の必要性を認めてもらわなければなりません。
傾向として、次の4つの場合では削除が認められやすくなっています。
事件から概ね3年経過している
事件から概ね3年経過している事件については削除が認めてもらいやすくなります。ただし、社会的にインパクトが大きい事件については10年以上の期間が必要となる場合もありますし、軽微な事件だと3年と経たずに認めてもらえるケースもあります。
犯人が更生して社会復帰している
犯人が更生してまじめに社会復帰している場合は、削除が認めてもらいやすくなります。
また、被害者と示談が成立している場合にも削除が認めてもらいやすいです。
実名報道によって本人が被害を受けている
まじめに社会復帰しているのにも関わらず、実名報道によって被害を受けていることをきちんと裁判官に示すことができれば、削除が認めてもらえる可能性は高まります。
逆にどれだけ被害を被っているのか、客観的に示すことができない場合や、そもそも被害を受けていると考えられない場合は削除が認めてもらいにくくなりますので注意が必要です。
冤罪だと判明している
冤罪だと判明している場合、これは早急に削除することができます。
冤罪にも関わらず誤った情報を報道されることは本人の権利を著しく侵害していることになり、裁判所も比較的容易に削除を認めてくれます。冤罪の場合は削除を認めてもらえる可能性が極めて高いといっていいでしょう。
逮捕歴の削除はネット問題に集中的に取り組んでいる弁護士に依頼すべき
逮捕歴の削除を弁護士に依頼しようと思った場合、ネット問題を集中的に取り組む弁護士に依頼することを強くおすすめします。
ネット問題はインターネットの登場と共に台頭してきた問題です。そのため、多くの経験を積んでいる弁護士はまだまだ少ないのが現状です。
さらに、逮捕歴の削除は非常にデリケートな問題です。というのも、事件の情報というのは「公益性」があると考えられているからです。
国民には、世の中でどのような事件が起きているのかを「知る権利」があります。また、情報を発信する、または自分の意見を自由に表明する「表現の自由」もあります。ネット上にある事件の記事を削除するということは、これらの権利を侵害するのではと考えられているのです。
ですから、弁護士はこれらの権利と対抗しつつ、本人の権利がどれほど侵害されているかを適正に主張する必要があります。
弁護士にも得意不得意があり、権利問題に造詣が深い弁護士もいれば、企業法務に精通した弁護士もいます。もちろん前者のほうが、専門性の高い主張ができますから、裁判になった場合に削除を認めてもらえる可能性は高まるでしょう。
ですので、どれだけネット問題に取り組んでいるか、または過去に逮捕歴を削除した経験などを見ながら、弁護士選びは慎重に決定するようにしてください。
ネット上に晒された逮捕歴・前科・犯罪歴の削除は今すぐご相談ください
ネット上に逮捕歴が晒されたままだと、日常生活、あるいは人生の分岐点において支障をきたすことになります。就職・結婚・将来の人生設計。十分に反省しており、まじめに社会復帰していれば、必要以上に情報が晒される必要はありません。
ただし、削除を行うには法律的に専門的な知識や手続きが必要になることも事実です。そして情報が拡散してしまう前に迅速に対応することが最も重要です。逮捕歴の削除は一人で悩まず、当事務所できる限り早めにご相談ください。