「事実」だからと言って許されるわけではない。「表現の自由」よりも「プライバシー」が優先される時とは?
「事実なんだから、いいじゃないか!」
「事実を言って何が悪い!」
そんな風にいう人もいますが、ネット上において何かを書き込んだり公開して公表するということは、それがたとえ事実であったとしても相手の社会的評価を下げてしまう恐れがあります。
けれども一方で、日本国憲法では「表現の自由」を認めていますから、事実を言うことさえできなければ、それはそれで問題になるでしょう。ではこのような場合、表現の自由と個人のプライバシーや名誉毀損、誹謗中傷についてはどちらが優先されるのでしょうか。
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表現の自由VSプライバシー侵害による名誉毀損、どちらが優先されるのか
表現の自由とプライバシー権については、古くから法廷で争われてきました。今ではネットが普及していますが、昔は表現の媒体として用いられていたのは主に「書籍」でした。そのため、実話をもとに書いた小説とそのモデルとなった登場人物との間で表現の自由とプライバシー権の問題が争われることがありました。
中でも有名なのが「宴のあと事件」です。
宴のあととは、三島由紀夫の長編小説ですが、ここに登場していた元外務大臣が小説でプライバシーを侵害されたとして、1961年当時にして100万円の損害賠償請求と謝罪広告の掲載を訴えて提訴しました。
この論点は、今で言う所のネット上で起きている表現の自由とプライバシー侵害による名誉毀損の争いにとてもよく似ています。
裁判の中で三島由紀夫は、
「芸術的表現の自由が、原告のプライバシーに優先する」
との主張をしましたが、判決では次のように裁判長が示しました。
「言論、表現の自由は絶対的なものではなく、他の名誉、信用、プライバシー等の法益を侵害しないかぎりにおいてその自由が保障されているものである」
つまり、表現の自由はいついかなる時も絶対優先ではなく、「他の名誉、信用、プライバシー等の法益を侵害しない限り匂いて」保障されるとしたのです。
さて、ここでいう「法益を侵害する」を具体的に言うと以下の4点となります。
- 私生活上の事実、またはそれらしく受け取られる恐れがある事柄
- 一般人の感受性を基準として当事者の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められるべき事柄
- 一般の人にまだ知られていない事柄
- このような公開によって本人が現実に不快や不安の念を覚えた場合
これらに該当する表現については、一定の制限を受けることとなるとし、判決では三島に対して80万円の損害賠償の支払いを命じました。(その後、三島は控訴しましたが和解が成立しています)
また、別の事件では(長良川事件)でも同じく表現の自由とプライバシー権が問題となった際には、次のように裁判所が見解を示しています。
「プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優劣する場合に不法行為が成立する」
「公表をされないことによる利益」と、「公表することによって得られる社会的利益」を比較して、公表されないことによる利益が勝る場合については、不法行為が成立するとしたのです。
例えば、ネット上で勝手に過去の経歴を公表されたりすることは、それによって社会的利益が高まるよりも、個人が公表されないことによる利益が勝ると考えられます。その反対に、批判したほうが世の中に警鐘を鳴らす結果になることもあります。そのような場合については、プライバシーよりも表現の自由が優先されるのです。
とてもわかりやすく言えば、表現の自由は原則自由だけど、他人に不利益を与えるような名誉毀損や誹謗中傷の書き込みについてまでは、表現の自由として認めませんよ、ということです。
名誉毀損に「事実」かどうかは関係ない!?
冒頭にお話しした、
「事実なんだからいいじゃないか」
と言う点ですが、名誉毀損についてはそのネット上に書き込まれた内容が事実かどうかを問いません。
すでに死亡している人に対するものについては、事実であれば許されるものの、生きている人の名誉棄損については、たとえそれが事実でも虚偽でも、その内容が本人の社会的地位を低下させるものであれば、名誉毀損罪として成立するのです。
ですから、もしもネット上に書き込みをする際には、
《参考》ネットで名誉毀損されたら、慰謝料はいくらもらえるの?
「事実なんだから、何を書いても許される」
と言う考えは、あらぬトラブルを引き起こしますので、絶対に注意しましょう。
また、万が一ご自分の情報が書き込まれた際には、たとえそれが事実だったとしても名誉毀損、誹謗中傷による慰謝料請求をすることが可能ですので、一度弁護士に相談しましょう。
表現の自由はともかく、実害があるネット上の書き込みは早急に削除を
ここまで表現の自由とプライバシー権について解説してきましたが、これらはあくまで裁判になった際に最高裁が判決を出す話です。個人の人のネット誹謗中傷や名誉毀損の案件で、そこまでの裁判になることは少ないでしょう。
むしろ、現実的には法的な議論云々よりも、とりあえず信用失墜や営業利益減少などの実害が発生しているのであれば、一刻も早くその記事を削除する必要があります。
そのため、まずは表現の自由のことはおいておいて、弁護士に相談しましょう。掲示板の管理者やプロバイダについては、表現の自由を明確に制限すべき状況でなければ、なかなかすぐに記事を削除しない恐れがあります。ですので、できる限り早い段階で弁護士を代理人として立てて直接交渉してもらうことが良いでしょう。
また、削除と併行して損害賠償請求をするための情報発信者の開示請求も行っていきましょう。まずは管理者から投稿されたプロバイダのIPアドレスを開示させ、その後そのプロバイダに対して投稿者本人の住所、氏名、連絡先などを開示させます。
これによって加害者が特定できたら、慰謝料や営業損害などの損害賠償請求をしていきましょう。